~あとがき~


 Webマガジン「ウエネウサラueneusar~sportologyへの好奇心~」を始動させます。この「ウエネウサラ」はアイヌ語で「四方山話」という意味で、広義の「スポーツ」にかかわる話題を広く、そして忌憚なくおしゃべりしようという趣旨で名づけました。まずは、ISC・21のホームページ上をお借りし、原則、四人の編集長(順に井上邦子、松浪稔、瀧元誠樹、竹村匡弥)が一人ずつ個々の興味関心のままに責任編集をし、季刊発行をめざします。まだまだ生まれたてのページです。みなさまのご意見を栄養にこれから育てていきたいと考えています。ご意見ご感想をいただきますよう、よろしくお願いいたします。
 さて、今号特集テーマは「遊びを遊ぶ」。
 念頭にあるのはスポーツの原初としての「 遊ぶ 」です。その「 遊 」の世界の中で、執筆者のお力を借りて遊んでみたい、そう考えています。「 遊び 」について思考することはスポーツ学の分野において、いわば根源にかかわる重要な部分でしょう。しかし「遊び」について考えを巡らしたり、互いに意見を交換するについても、その動詞は「学ぶ」や「考える」ではしっくりこないと常日頃考えていました。やはり「遊び」は「遊ぶ」でないと・・・。遊びは遊ばれなければ、その本質は十全には語れないのではないだろうかと思うのです。
 そこで目をつけたのが、カイヨワの遊びの4つのパターン――アゴン(競争)・アレア(偶然)・ミミクリー(模倣)・イリンクス(眩暈)。この4つの入り口からそれぞれの執筆者に「遊びを遊んで」もらうという企画を考えました。4つのイメージがWeb上にあつまることによって共振することを目指しています。

 この4つのイメージを表現していただくにあたり、できるかぎり専門が異なる執筆者を選ぶ(理系と文系をまぜこぜにする。松岡正剛いわく「遊学する」)ことを意識しました。アゴン( 競争 )には生化学、物理学をそれぞれご専門とされるお若い研究者お二人に、アゴンからイメージすることを語っていただいています。はじめのペンネーム 「いつこ 」さんの文章からは、「 競争 」が「 遊び 」ではなく、もはや現実生活そのものになっている現代という時代に気付かせてくれます。そこから少し距離を置いたところで、今しかできない心の遊びの風景を描いてくださいました。またペンネーム「湯川の丸」さんは、今号のテーマの意図を汲んで、アゴンをぞんぶんに「遊んで」くださいました。「競争」というテーマに競争原理の欠如――それを「 湯川の丸 」さんは、「 競争意思がないつまらないレース 」と表現しますが――について語る面白さが、湯川の丸さんの文にはあります。そのつまらないレースをおもしろそうにみるアインシュタインと、筆者の姿がだぶってみえてくる、そんな感じがします。
 アレア(偶然)は「 ISC・21 」主幹研究員でスポーツ史がご専門の稲垣正浩先生にお願いしました。これまで先生が考えてこられたことは、かならず遊びの「 アレア 」にも繋がる・・・そう思い「アレア」の執筆をお願いしましたが、その予感は的中しました。「純粋に『偶然』の賭けごとに身をゆだねるということは、とんでもなく孤独な、虚無の世界に身をゆだねるにも等しい経験となる。バタイユがいうところの『信仰なきエクスターズ』の、地獄に落ちていくような恐怖の、よるべなき強度につながっていく。だからこそ、ここに『すべて』があるのだ。」――アレアの深い深い世界へ誘ってくれる文章で、読者もその世界で遊んでいただけると確信しています。
 ミミクリー(模倣)は比較文化学をご専門とされている瀧元智恵さんに描いていただきました。瀧元さんは専門分野の比較文化学と親子が共有する遊びの時と空間を見事につなげ、両方を行ききする形で、ミミクリーの空間を描いてくださいました。温かなまなざしから発せられた言葉は、「生身の遊び学」といえるのではないでしょうか。

最後にイリンクス(眩暈)は、精神科医で特に脳研究を専門としている井上眞さんにお願いしました。先端の脳科学の分野でも、自我の確立や主体性の安定、社会性の獲得という研究だけでなく、「自我を超える」ような「遊ぶ」脳のはたらき(それを筆者はイリンクスへと繋がるとみているのですが)への関心が高まりつつあることを教えてくれます。ここに共振する「遊学」の一端をみることができます。
 お忙しいにもかかわらずご執筆いただいた5人の方々には、この場を借りてお礼申し上げます。力と気持ちの籠った言葉の数々をありがとうございました。加えて、このWebマガジンが用意した「遊び」の場で、5人の執筆者が遊んだ文脈に誘われ、読者のみなさんもいっしょに遊んでいただけたなら編集したものとしてはうれしい限りです。ご意見ご感想をお待ちしております。
 

(創刊号編集長 井上邦子)

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